「直感で読むことが大切」
タロットやオラクルカード、占いを学んでいると、よく耳にする言葉です。
また、「先入観を持たずに読むことが大切」とも言われます。
しかし、実はどちらも、目の前のものを見て、ふと思ったことには違いありません。
実際のところ、私が“今、思いついたこと”は、「直感」なのか「先入観」なのか、その判断はかなり難しいところです。
この違いを考えるうえで、ひとつの手がかりになるのが、心理学で扱われる「物語(ナラティヴ)」という考え方です。
先入観は、すでに知っている物語を繰り返す
人間は、何かを見たとき、まったく白紙の状態から意味を考えているわけではありません。
それまでの経験、知識、価値観、常識などを使って、目の前の出来事を理解しようとします。
たとえば、誰かから連絡が来なかったとき。
「忙しいのかもしれない」
と考える人もいれば、
「嫌われてしまったのかもしれない」
と考える人もいます。
起きている事実は、どちらも「連絡が来ていない」ということだけです。
しかし、その事実にどんな意味を与えるかは、人によって違います。
過去に人間関係で傷ついた経験があれば、「また嫌われた」という解釈が自然に浮かぶこともあるでしょう。
これが先入観の働き方のひとつです。
目の前にあるものを見ているようで、実際には、自分がすでに持っている物語に照らし合わせている。
その物語が強くなるほど、ほかの可能性は見えにくくなっていきます。
ドミナントストーリーとは何か?
心理療法のひとつに「ナラティヴ・セラピー」という考え方があります。
ナラティヴとは、物語のこと。
ここでは、人間は、自分自身や周囲の出来事を、さまざまな物語によって理解していると考えます。
そのなかでも、特に強い影響力を持ち、ものの見方を支配するようになった物語を「ドミナントストーリー」と呼びます。
たとえば、
「自分は何をやってもうまくいかない」
という物語を持っている人がいたとします。
何かに失敗すると、
「やっぱり、自分はダメなんだ」
と考える。
一方で、うまくいったことがあっても、
「今回はたまたま運がよかっただけ」
と片づけてしまう。
こうして、どんな出来事も「自分はうまくいかない人間だ」という物語を補強する材料になっていきます。
問題は、そこに別の事実が存在しないことではありません。
別の事実があっても、すでに持っている物語によって見えなくなってしまうことです。
「先入観」とは、こうしたドミナントストーリーを強化する方向に働くことがあります。
直感は、別の物語を見つけるきっかけになる
一方、ナラティヴ・セラピーでは、支配的になっている物語とは異なる「オルタナティブストーリー」にも注目します。
オルタナティブとは、別の選択肢や可能性という意味です。
「自分は何をやってもうまくいかない」
という人にも、実際にはうまくいった経験があるかもしれません。
誰かに助けられたこと。
自分で決断できたこと。
困難な状況を乗り越えたこと。
これまでの物語では重要視されなかった出来事に目を向けることで、まったく別の自分の姿が見えてくることがあります。
ここに、占いにおける直感との共通点が見えてきます。
たとえば、恋愛について占っているときに、何気なく出たカードの絵柄から、突然「仕事」という言葉が浮かんだとします。
相談内容は恋愛です。
普通に考えれば、恋愛の話としてカードを解釈するのが自然でしょう。
しかし、その「仕事」という言葉をきっかけに、恋愛の問題だと思っていたことが、実は仕事への不安や生活の変化と関係していると気づくかもしれません。
もちろん、思いついたことが必ず正しいわけではありません。
それでも、これまで考えていなかった可能性を見つけるきっかけにはなります。
先入観が、すでにある物語の中で答えを探すものだとすれば、直感は、その物語の外側にある可能性へ目を向けるきっかけになる。
このように考えると、両者の違いが見えてきます。
直感だから正しい、というわけではない
ただし、ここには注意も必要です。
心理学でいう直感は、必ずしも先入観から自由なものではありません。
直感的な判断にも、過去の経験や学習、思い込みが影響します。
つまり、ふと思いついたことが、実はいつもの先入観だったという場合もあるのです。
だからこそ重要になるのが、思いついたことをそのまま正解にしないこと。
「なぜ、そう思ったのか?」
「目の前のものに、実際に何が描かれているのか?」
「別の読み方はできないのか?」
こうした問いを持つことで、自分の常識と、目の前にあるものを区別しやすくなります。
直感を大切にすることと、思いついたことを無条件に信じることは、同じではありません。
占い師に必要なのは、象徴を客観的に見ること
タロットカードには、さまざまな人物や風景、道具、動物などが描かれています。
それらは、カードを読む人の都合によって描き変わるわけではありません。
たとえば、あるカードに人物が二人描かれているとします。
そこから「協力」という言葉を連想することもあれば、「対立」という言葉を連想することもあるでしょう。
しかし、まず確認できるのは「二人の人物が描かれている」という事実です。
二人は向き合っているのか。
背中を向けているのか。
何かを持っているのか。
まず象徴そのものを丁寧に観察する。
そして、一般的な象徴の意味や、カードが作られた文化的背景などを理解する。
そのうえで、ふと浮かんだ言葉を重ねていく(ここがいちばんおもしろい!)。
直感を自由に働かせるためには、むしろ、その土台となる客観的な理解が必要になるのです。
象徴についての知識は、解釈をひとつに固定するためだけのものではありません。
自分の思い込みとは異なる解釈を見つけるためにも役立ちます。
なぜ「自分のことは占いにくい」と言われるのか?
占いの世界では、昔から「自分自身のことは占いにくい」と言われることがあります。
その理由として考えられるのが、自分のことになると、すでに持っている物語から離れにくくなるという点です。
たとえば、好きな人との関係を占ったとします。
「きっとうまくいくはず」
という期待が強ければ、どんなカードにも希望を見つけようとするかもしれません。
反対に、
「どうせ自分は愛されない」
という物語が強ければ、どんなカードが出ても不安な意味ばかり探してしまうことがあります。
つまり、カードを読んでいるつもりで、自分の期待や恐れを確認しているだけになってしまうのです。
しかし、これは自分自身を占うことが本質的に難しい、という意味ではありません。
目の前に出たカードを、自分の願望や不安とは切り離して観察できるなら、相談者が自分であっても、他人であっても、象徴そのものは変わりません。
自分自身を占うときに難しいのは、カードを読む技術というより、自分がすでに持っている物語から、どれだけ自由になれるかということなのかもしれません。
占いは、新しい物語を見つけるためのもの
占いでは、未来を知りたい、相手の気持ちを知りたい、という相談が多くあります。
しかし、すでに自分の中で答えが決まっていると、カードが何を示していても、その答えに合わせて解釈してしまうことがあります。
そうなると、占いは新しい可能性を見つけるものではなく、今までの物語を繰り返し確認するものになってしまいます。
一方で、カードという自分の外側にある象徴を通すことで、これまで考えもしなかった解釈に出会うことがあります。
「そういう見方もあったのか」
「そもそも、違うことを問題にしていたのかもしれない」
そんな気づきが生まれたとき、占いは単なる未来予測とは違う役割を持ち始めます。
直感とは、必ずしも特別な能力のことではありません。
目の前にあるものを丁寧に見つめ、自分の、これまでの常識だけでは説明できない可能性に気づくこと。
そして、その気づきをきっかけに、今までとは違う物語を見つけていくこと。
先入観が「いつもの自分の物語」に戻ろうとするものなら、直感は「まだ知らない物語」への入口になる。
占いのおもしろさは、そんなところにもあるのではないでしょうか。


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